暗黒騎士の話。
魔大陸の戦いの後、暗黒騎士の噂を聞いた。それが彼との出会いだった。
いろいろ思うところがあったので、覚書。
(以降、暗黒騎士ストーリーのネタバレあり)
それはもう亡くなってしまった暗黒騎士の遺体だったけど、気が付けば彼はこちらを見ていた。まだ死んでいなかったらしい。彼と接触したことで負の力を制御する必要ができてしまったので、なし崩し的に暗黒騎士の一歩を踏み出した。
それから、彼のいう、「彼女」に妙な親近感を覚えつつ、きっと自分と重ね合わせているのだろうと思ったりしつつ。何度か彼のもとを訪れて、そして、護るべき誰かだという声を聴いた。
彼、フレイは二つ名が影身なことから、もしかしてフレイの本体は別にあって、聞こえる声は本体のほうなのか、とか、もしかしたらもう死んでいる体を動かしているのか、とか、いろいろ考えてみたけれどわからない。
物腰は優しくて、だけどどこか余裕がなくて、だんだんその余裕のなさが謙虚になっていって。ただ、無理しないでほしかったし、心配だった。
それでも、断り切れず剣を手に手助けをしてしまう自分を、一人で行かせずに一緒に来てくれる彼は、とてもやさしい。
戦い方を教えてくれて、護るべき人を護るようにと言いながら、一方で戦わないでほしいと思っているようで、それにはきっと応えられないことが申し訳なかった。この頼みだって、断るしかない。
怒ってくれたことは素直にうれしかった。英雄が他人の為に戦うことも当たり前ではない、ただの人でもあるのだと、傷つくことは痛いのだと。
それでも、大切な誰か、その人の為に、その他を犠牲に出来るほどの強さを、多分持っていない。それは、英雄と呼ばれる者の弱さであり、それを誰かは強さと呼ぶのだと思う。
暫く経って、また会いに行った。
話をしに行ったけれど、頼み込まれて手を貸している間に、フレイは。
そこで、フレイの正体を知った。
フレイ、と、呼んでいいのか、もうわからない。最初から彼は、彼ではなかったらしい。
それは、英雄となって押し込めて見ないふりをしてきた負の感情の化身のような存在だった。苦しみや痛みや、多分、恐怖や悲しみも、全部あるはずなのに立ち上がって突き進んで、蔑ろにしてしまったそれらだ。
それらの感情が、自分のもとを離れて別の人格を手に入れて、もう逃げ出そう、これ以上進むのはやめようと、諭してきていたということなのだ。
これはつまり、ただ自分を大切にしてほしいと、そういうだけの話だった。
自分の弱さとの戦いでもあったけれど、弱さを打ち砕いたわけではない。多分受け止めて、受け入れて、それを抱えて、それでも前に進んで戦っていきたいと、本当の意味で、誰かにそそのかされるでもなく流されるでもなく、自分の意志でそうやって旅をすると決めた話なのかな、と思った。